アルツハイマー病を発症前から追跡
2022/05/16
診断・治療のヒントを探る
東京大学を中心とするアルツハイマー病の追跡研究「J-TRC(ジェイ・トラック)」は、無症状の「超早期段階」の特徴を突き止め、将来の診断や予防、治療薬の開発につなげるプロジェクトだ。2022年3月末でインターネットによる登録・参加者は節目となる1万人を超えた。
2019年10月に始まった。認知症になっていない50~85歳の男女であれば、専用サイトを通じて参加できる。登録した人は3か月に1度のペースで、約15分かけて回答する2種類の認知機能テストをネット上で受ける。
将来にわたってアルツハイマー病の発症やリスクの上昇が疑われると、指定の7つの医療機関を通じ、任意で血液検査や画像検査を受けることも可能だ。
代表者の岩坪威東大教授は「誰でも気軽に参加してもらえる新聞やテレビで紹介されるとその都度、登録者が増える。社会の関心は高い」と明かす。
国内の認知症患者は25年に730万人、50年には1016万人に達するとされる。うち半分以上がアルツハイマー病だ。深刻な症状が出始めてからでは今の医学だと太刀打ちできない。軽度認知障害(MCI)や早期の段階で介入し進行を遅らせる道しかない。
アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドベータ―は、症状が出る十数年前から時間をかけて脳に蓄積する。超早期段階で簡単な方法を使って診断できるようになれば、新たな治療薬開発の道筋ができるだろう。
米国では4月上旬、アメリカ食品医薬品局(FDA)が条件付きで21年夏に承認したアルツハイマー病薬「アデュヘルム」について、高齢者への公的保険の適用が見送られた。MCIや早期段階での治療の切り札になると期待が大きかっただけに、患者やその家族に落胆が広がった。
それでも、早い段階から「異変」をとらえる診断法を確立し、治療薬を開発を目指すというのが、今の認知症研究の本流だ。それには分析する膨大なデータの蓄積が欠かせない。
国内の認知症に関する研究費は米国よりも1桁以上小さい。「J-TRC」も2万人規模の登録を目指すが、24年4月以降、どのように継続するかは未定だ。
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