つけ込み契約 対策進まず
2022/08/04
判断力低下の高齢者に高額品
認知症高齢者が複数の生命保険契約を締結させられたり、呉服店から装飾品を大量購入させられたりー。有識者が長年、判断力の低下につけこんだ、こうした契約の取り消し権を求めるが、実現していない。6月に公布された改正消費者契約法に盛り込まれず「消費者を救えない。今からでも法改正を」と訴えている。
知症高齢者などの主な相談事例
・認知症の兄嫁が勧誘されるまま複数の生命保険に加入し、生活に支障が出るほどの保険料を払い続けて いた。
・1人暮らしの母が呉服店から真珠のネックレスや和服など999万円分を購入した上にそのことを忘れており、病院で認知症と診断
・スマートフォンをあまり使わない高齢者が、「セット販売が必要」と本来不要なタブレット端末などを渡され、通信料金を請求された。
・認知症の1人暮らしの親族が「知らない男性に銀行に連れていかれた」と話すので確認すると、中古マンション3室を購入し、約4200万円を振り込んでいた
取り消し権求める声
消費者の加齢や知識・経験の不足など、合理的な判断ができない状況を不当に利用して契約を結ばせる「つけ込み型勧誘」。2022年版消費者白書によると、各地の消費者センターに寄せられた認知症などの高齢者が絡む相談件数は21年、8551件に上った。
法改正に盛らず
18年の法改正で霊感を理由に不安をあおったり、恋愛感情を利用したりして結んだ契約は取り消せることになった。だがつけ込み型不当勧誘への取り消し権は創設されず、付帯決議には早急な検討が明記された。
昨年9月に消費者庁の報告書も、認知症などで消費者が住居や貯蓄の大半を失うような契約を結んだ場合は取り消し対象とすべきだと提案した。
消費者庁に動き
だが若宮健嗣消費者省は4月の国会で「(事業者の不当行為に着目する)従来の取り消し権を超える側面がある」と説明。改正法は「年齢・心身の状態」も考慮した情報を消費者に提供するよう事業者に努力義務として求めるにとどまった。
今回の改正でも「取り消し権の創設について抜本的に求める」との付帯決議が採択された。消費者庁は6月21日、法律の役割などを考える有識者懇談会の設置に向けて準備会を開催。近く本格的に議論を始める方針だ。「消費者契約法の改正を実現する連絡会」の野々山宏弁護士は多角的な議論が期待できるとして消費者庁の動きを歓迎する。だが「多くの専門が労力と時間を費やした昨年9月の提案の多くが実現していない。このような法改正では検討会の存在意義そのものが問われる」と語る。
国会でも参考人として取り消しの創設を求めてきた。「判断力があることを前提とした従来の消費者像を見直し、脆弱性につけこむ業者に対策すべきだ」と改めて指摘し「現に生じている被害に対応してほしい」と訴えた。
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